はくり/幸色のワンルーム


幸色のワンルーム(1) (ガンガンコミックスpixiv)

■誘拐された女子中学生は、誘拐犯に感謝するのだった。 それは「生まれて初めて私を好きと言ってくれた人だから」

実写ドラマ化されるというので物議を醸しそうな一作。 個人的には好きになれずに発売当初スルーしたが、 この機会にレビューをアップしておきたい。


誘拐犯はストーカー。彼女の写真を前からとりためていた。 「本人に嫌われればストーカーもやめられると思って/ 嫌がられることを前提に誘拐した」という、 「本当に誘拐する気はなかった」などと言い訳混じりも 自己中心的な発想の人物である。一方、誘拐される女子中学生は、 誘拐犯に笑顔で感謝した。相手が異常であるのはわかる、 が、その相手のほうが今まで生きてきた環境よりも マシだから、その決め手が「好きと言ってくれた」からだという、 なかなかヘビーな設定である。


テーマ設定は重い。問題は、それを描くには構成も筆力も 弱すぎるのではないかという点にある。 ピクシブレーベルでネット発の作品でありコマ割りは4コマ漫画と見紛うよう。背景の設定は一通りあり用意はあるのだろうが 一巻時点ではほぼ描かれず、なので誘拐という話を甘い人工甘味料 でコーティングして商品として提供されたできの悪い駄菓子のように 見える。


ストックホルム症候群、ともまた違うのだろうが、この手の誘拐犯に恋をする的な重いテーマを描く際には作品の序盤で相応の助走期間が必要だろう。それと、主人公ふたりの内心の声、モノローグが多いが、本来モノローグというのは表面で展開されている事象とは別のことを秘めている場合に敢えてそれを暴露するという場合に使うべきもので、言わずもがなのことをモノローグ化するのは日本映画やケータイ小説の悪しき表現手法である。


ヒロインが、親に虐待され、痣や傷跡をみた同級生にいじめられ、教師には性的いたずらまがいを受け、ネグレクトされた結果か中学生としては幼すぎ世間を知らず買い物さえろくにできない、という四面楚歌の状況での救いが誘拐犯だったのだ、という皮肉はフィクションの設定としてなしではないのかもしれない。ただしそれは、強制猥褻から始まる恋もある、というような 話に聞こえる。だから規制すべき、とは思わないが、丁寧に作る必要があって、本作には本気の取り組みがあるようには見えない。ちなみに本作は出版社を通じてメジャー流通されているので、著者の問題というより版元の問題だと考える。


ところでネットでは、実在の事件を想起させる云々という話があった。しかし本作は良くも悪くも、 具体的な描写に乏しいので、読んだところで、ああ、あの事件ね、と想起することはなかった。逆に、本作では家庭や学校に問題があると提示しているので、実在の事件に似ている、と騒ぐことは寧ろその実在の事件の被害者回りに迷惑がかかるのではないか?と心配になる。なおフィクションは、それを意図しているのでない限りは、ノンフィクションの事件事故人物を想起させてはならない、と個人的に思っているので、ネット上での本作に対する懸念の根本思想には同意である。モデルから離れてフィクションを展開できないのであれば、その人はフィクションなど作ろうとすべきではない、関わるべきではない。


ちなみに。本作のようなフィクションが犯罪を助長する可能性については、それは言いがかりだと思っている。犯罪を助長するとすれば、それは作り物よりも現実である。ニュースやワイドショーで犯罪報道がある限り模倣犯はなくならない。フィクションは現実にできるかどうかは別だが、ニュース報道は現実にあったものであり実現可能なことである。ワイドショーでは微に入り細に入り報道されるものもある。中には犯人が逃走中の事件もあり、それはつまり罪を犯しても逃げおおせるというメッセージを発しているわけである。フィクションに罪があるとするならば、ノンフィクションや報道はより重罪である。なおニュースは珍しいからニュースになる。日常的に行われている犯罪は報道として取り上げられないが、それはリアルに目にすることにより日常茶飯事なんだというメッセージを送ることで犯罪を助長する。つまりは、リアルのほうが人間の行動への影響度は高い。その点で、本作のような作品が世に出ようが、それによって犯罪を助長するということはない。そういう報道がなされた場合は、フィクションに責任をなすりつけたい、そういうストーリーが良いと思う報道なりノンフィクションなりの構成作家の頭の中身が現れているだけである。


つまり作品の社会に与える影響云々は、まぁ、騒ぎたい人が騒いでいるだけでマッチポンプなのでどうでも良い話である。犯罪被害者の人は読んでいて良い気分にならないだろうが、どんな事件事故を扱ったフィクションもそれが自身に少しでも似ていると気に障る部分はあるだろうからモデルであることが確実である場合以外は黙っていていただきたい。 ということを踏まえつつ、本作は作品としてあまり面白くなく読後感も良くない。不条理ゲーム系が現実と切り離したものとして展開していたその不快さを、現実に近い所で展開してしまったのが本作である。ある種のタブーであるのだが、それをタブーと考えていない気軽さ稚拙さで 描いているように見える。そんな本作を、実写ドラマ化するという暴挙に出たのはいったいどこなのか。ある程度真摯に取り上げた映画『ルーム』だってそうとう胸糞悪かったわけだからねぇ・・・。


【データ】
はくり
幸色のワンルーム (さちいろのわんるーむ)
【発行元/発売元】スクウェア・エニックス (2017/2/22) ※電子版で購入
■評価→ D(問題) ■続刊購入する?→★
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薄幸な少女は誘拐されて“幸せ"を初めて知る。
その日、少女は誘拐された。 しかし、それは少女にとって一縷の希望にかけた生活の始まりだった。 少女は誘拐犯に結婚を誓い、誘拐犯は少女にたくさんの“幸せ"を捧ぐ。 被害者と誘拐犯の関係なのに―――どうしてこんなに温かいの? pixiv&Twitterの超話題作が待望の書籍化!!! 半分以上が本書限定の描き下ろしエピソードを収録!!!



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